底生有孔虫(Benthic foraminifera)
単細胞真核生物(原生生物)である「有孔虫」には、海洋表層や水柱を浮遊生活する浮遊性有孔虫と、岩礁地の藻類や堆積物内で生活する底生有孔虫がいる。それぞれ熱帯から寒帯まで、後者ではマングローブや干潟などの浅海から、マリアナ海溝の超深海まで生息している。底生有孔虫の一部は、淡水からも見つかる。沖縄のお土産「星砂」は、有孔虫の一種(Baculogypsina sphaerulata(Parker & Jones, 1860))で、砂浜を構成するほどの炭酸カルシウム生産量(二酸化炭素を固定する)がある。また、深海には、ゼノフィオフォアと呼ばれる大きさが20センチを超える種類も生息する。
「殻」は、炭酸カルシウムや堆積物粒子、有機膜で構築され、チャンバーと呼ばれる小さな部屋が、平面旋回・トロコイド旋回・直列状・二列状などに付加しながら成長する。仮足を伸ばして移動・摂食を行う。仮足には顆粒状の粒子が存在し、仮足同士が連結して網目状に展開する。
有孔虫には微細藻類(渦鞭毛藻や珪藻、緑藻など)を共生させたり、主に珪藻由来の葉緑体だけを細胞内に短期間保持し(盗葉緑体現象)、その光合成産物を利用している種もいる。有孔虫は硬い殻を持つため化石記録として残りやすく、現在だけではなく過去の環境指標に用いられたり、化石の出現・絶滅記録から、年代の指標として用いられている。炭酸カルシウムの殻に含まれる炭素や酸素の同位体比から、水温などの環境を明らかにすることもできる。
浅虫などの岩礁地では、主に石灰藻の葉上で生活しているものがよく見られる。生活様式は種ごとに異なり、固く固着するタイプ(RosalinaやCibicidesなど)、自由に動き回るタイプ(Planoglabratellaなど)、動き回れるが石灰藻の隙間に仮足を展開して体を固定していることの多いタイプ(PararotaliaやElphidiumなど)、石灰藻の基部にある堆積物内などにも自由に動き回るタイプ(Quinqueloculinaなど)が生息する。石灰藻の微小空間内で資源となる餌の摂取方法がそれぞれ異なるため、同所的に生息できると考えられる。
底生有孔虫の解説はJAMSTECの土屋正史氏にご提供頂きました。
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シビシデス・ロバツルス(殻の表側(旋回面))
Cibicides lobatulus (Walker & Jacob, 1798)
石灰質(ガラス質石灰質)の殻を構築し、トロコイド状旋回で付加成長する。乳白色の殻をもち、細胞質は薄いピンク色を呈する。石灰藻などの表面に固着し、石灰藻類に付着する珪藻などを捕食する。共生藻はいない。殻の表面に写っている茶色い点は珪藻。 -
シビシデス・ロバツルス (殻の裏側(臍側面))
Cibicides lobatulus (Walker & Jacob, 1798)
Cibicididae. -
エルフィディウム・クリスプム
Elphidium aff. crispum (Linnaeus, 1758)
石灰質(ガラス質石灰質)の殻を構築し、平面旋回でチャンバーを付加成長させる。殻は透明、細胞質はオレンジ〜茶色を呈する。石灰藻などの隙間に仮足を展開して生息する。珪藻由来の葉緑体を細胞内に保持し、おもに光合成産物を栄養とするが、展開した仮足にトラップされた有機物や藻類に付着する珪藻なども捕食する。
本種は汎世界的に分布するものの、日本のものはヨーロッパのものとは遺伝的に異なるため、Elphidium aff. crispumとした。 -
エルフィディウム・クリスプム2
Elphidium aff. crispum (Linnaeus, 1758)
Elphidiinae. -
プラノグラブラテラ・オパキュラリス(殻の表側(旋回面))
Planoglabratella opercularis (d’Orbigny, 1839)
石灰質(ガラス質石灰質)の殻を構築し、トロコイド状旋回で付加成長する。殻は透明、細胞質はオレンジ〜茶色を呈する。石灰藻の葉の上を動き回る。珪藻由来の葉緑体を細胞内に保持し、おもに光合成産物を栄養とするが、葉上に付着する珪藻なども捕食する。写真の個体には棘の有無の違いが見られるが、どちらも同一の遺伝子配列を持つ同一種。 -
プラノグラブラテラ・オパキュラリス (殻の裏側(臍側面))
Planoglabratella opercularis (d’Orbigny, 1839)
底生有孔虫は主に有性生殖と無性生殖を繰り返す生活環を持つ。多くの場合、有性生殖時には遊走子を環境中に放出するが、本種の場合、2個体が臍側面で融合し、殻の内部で遊走子を交換し接合する。また、有性生殖世代と無性生殖世代の間で、殻形態が大きく異なり、前者は右巻き、後者は左巻きとなり、ほぼ100%がどちらかの巻方向となる。 -
プラノグラブラテラ・オパキュラリス (殻の裏側(臍側面))
Planoglabratella opercularis (d’Orbigny, 1839)
日本周辺に広く分布するが、日本海〜北海道、本州(房総半島より西側と東側)の3つの遺伝型が存在し、日本列島の形成過程に伴う海陸分布の変化と連動した遺伝的分化が進行したと考えられる。小さな交配集団が連続的に分布する「輪状種」用の分布を示すことが、交配実験から明らかになっている。交配できない集団は異なる遺伝型を持っていることが示唆され、形態には現れないものの遺伝的分化が進行していると考えられる。
Glabratellidae. -
ロサリナ
Rosalina spp.
Rosalina globularis d’Orbigny, 1826
Rosalina bradyi (Cushman, 1915)
石灰質(ガラス質石灰質)の殻を構築し、トロコイド状旋回で付加成長する。殻は透明、細胞質はオレンジ〜茶色を呈する。石灰藻に強く固着して生活する。葉上に付着する珪藻などを捕食する。
臍側面の形態に違いがあり、R. bradyiとR. globularisを見分けることができる(写真の矢印で表示)。 -
ロサリナ・グロビュラリス(殻の表側(旋回面))
Rosalina globularis d’Orbigny, 1826
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ロサリナ・グロビュラリス (殻の裏側(臍側面))
Rosalina globularis d’Orbigny, 1826
Rosalinidae. -
キンケロキュリナ・セミヌラ
石灰質(磁器質石灰質)の殻を構築し、チューブが折りたたまれるように付加成長する。殻は乳白色を呈し磁器のような質感がある。細胞質はピンク〜白色を呈する。石灰藻や石灰藻基部の堆積物を自由に動き回る。共生藻はいない。殻の表面に写っている茶色い点は珪藻。
Miliolidae.