Nakanishi et al. (2025)

Nakanishi, N., Takahashi, M. and Kumano, G. (2025) Diversification of cnidarian mechanosensory neurons across life cycle phases: evidence from Hydrozoa. Integrative and Comparative Biology, icaf027, https://doi.org/10.1093/icb/icaf027.

概要

2024年にサバティカルで浅虫に来られたアーカンソー大学の中西永安准教授が、当研究室の大学院生高橋さんと一緒に行った研究成果がIntegrative and Comparative Biology誌に掲載されました。

数億年におよぶ独自の進化過程において、刺胞動物は様々な機械受容器官(mechanosensory structures)を進化させてきました。なかでも外胚葉上皮に存在する機械受容器官には、同心円状有毛細胞(concentric hair cell)と呼ばれる機械受容ニューロン(mechanosensory neuron)が存在し、外界からの機械的な刺激を感知し体内へその情報を伝えます。機械受容ニューロンは広く動物界で観察され、その発生に関わる遺伝的ツールキットは左右相称動物のなかや左右相称動物と刺胞動物の間で保存されており、その起源が古いことが知られています。一方で、刺胞動物などの動物の進化の初期に分岐した動物群で、機械受容ニューロンがどの程度多様であるのかはよくわかっていません。

本論文では、刺胞動物ヒドロ虫綱に属するエダアシクラゲを用いて、異なるライフサイクル期(すなわちポリプ期とメドゥーサ期)において、異なる機械受容行動を取ること、また、それぞれの行動に対応して異なる形態を持つ機械受容ニューロンが存在することを発見しました。さらに、ポリプ期に見られた機械受容ニューロンはメドゥーサ芽ではもはや観察されず、メドゥーサ期に見られる機械受容ニューロンはメドゥーサ形成時に新たに作られることが示唆されました。

これまでの他の刺胞動物を用いた研究では、ポリプ期やメドゥーサ期などそれぞれの特定のステージにおいて異なる機械受容ニューロンが存在することは報告されていましたが、今回、ライフサイクルを通して機械受容ニューロンの多様化が起きていることが初めて示されました。