福森ほか(2025)・ Asada et al. (2026)

福森啓晶・阿部広和・鷲尾正彦・中山 凌(2025)イセシラガイの浅虫での記録と陸奥湾における分布状況.みちのくベントス 9: 37–41.

Asada, Y., Itoh, H., Sato, T., Fukumori, H.* (2026) First insight into the chemosynthetic bacterial symbiosis in the endangered bivalve Pegophysema bialata (Lucinidae: Pegophyseminae). Plankton and Benthos Research 21(3): 177–188. https://doi.org/10.3800/pbr.21.177
*はcorresponding author

概要

イセシラガイは殻長80 mm程度になる大型のツキガイ科二枚貝類で、近年日本では生貝の報告が少なく、環境省のレッドリストでは絶滅危惧I類に指定されています。陸奥湾でも1960年頃までは普通種とされていましたが、近年の生息状況はほとんどわかっていませんでした。しかし、浅虫で2024年に生貝がセンターの海水ポンプ周辺で確認され、その後の文献調査や聞き取り調査により青森県では約20年ぶりの生貝の発見であることがわかりました。本州北限である青森県の個体群は種の保全上重要であるため、生息状況をより詳しく知るためには今後、潜水採集を含めた継続的な野外調査が必要と考えられます。

イセシラガイが含まれるツキガイ科貝類は、泥の中の硫化物(硫黄化合物)をエネルギー源とする細菌を鰓に共生させ、細菌が作った有機物をもらって生活する特殊な生態を持つことが知られています。しかし、日本の沿岸で激減しているイセシラガイについては、これまで共生細菌の存在を裏付ける遺伝子データや形態的な証拠が一切ありませんでした。近年、青森だけでなく愛知県でも生貝が発見されたことから、イセシラガイと共生細菌の関係性を解明するための機会が訪れました。青森では前述のセンターの海水ポンプ周辺(アマモや海藻類がたまりやすい)、愛知ではアマモ場から採集されました。

青森産と愛知産、地理的に遠く離れた2つの個体の鰓をDNA解析(DNAアンプリコン解析およびサンガーシーケンス解析)した結果、両者から共通してSedimenticola属に近縁な共生細菌と考えられる特定の細菌グループが高い割合で検出されました。また、解剖の結果、イセシラガイの鰓は共生細菌をもつ他のツキガイ科と同様に、非常に分厚く発達し肥大化していることが確認されました。行動観察から、殻の長さの2倍以上にも伸びる細長い足を持つことがわかりました。この足を使って泥の奥深くにアクセスし、細菌のエネルギー源となる硫化物を効率よく取り込んでいると推定されます。おそらくイセシラガイは周囲の底質環境から特定の細菌を取り込んで共生関係を築くと考えられます。

形態・分子生物学的手法に基づく解析の結果、イセシラガイの鰓には共生細菌がいる可能性が高いことがわかりました。イセシラガイを保全するためには、貝自体の保全のみならず、パートナーである共生細菌が繁殖できる植物の葉などが溜まった有機物が豊富な泥底やアマモ場といった特殊な環境を保全・再生していくことが重要と思われます。