光合成の生理生態学講座

 

クロロフィル蛍光パラメータの理論的背景

 

 

はじめに(200310 22)

速度定数(200310 22)

エネルギーの分配(200311 05)

開いている光化学系IIと閉じている光化学系II:FoとFm(200311 13)

光化学反応の量子収率:Fv/Fm(200311 05・24)

開いた光化学系IIの割合:qP(200311 24)

光化学反応の量子収率:ΔF/Fm'(200312 06)

熱放散のパラメータ:qN、NPQ、1-Fv'/Fm'(200312 21)

Demmig-Adamsらの光エネルギー分配モデル(200401 14)


はじめに

 

私はこれまでに二度クロロフィル蛍光の説明の文章を書いてきました。一つはこのページの「クロロフィル蛍光の利用」で、もう一つは「光と水と植物のかたち」に書いた「クロロフィル蛍光から何がわかるか」です。両方とも(特に後者)、クロロフィル蛍光に全く知識がない人を想定読者とし、直観的な理解を優先して文章を書きました。しかし直観的な説明というのは所詮かなり単純化した説明でしかなく、正確なものではありません。特に、吸収エネルギーがどう分配されているか、の説明では誤解を招きやすい書き方をしています。この項ではあらためてクロロフィル蛍光パラメータを扱います。私自身専門家ではないのでやや難はありますが、できる限り「正しい」クロロフィル蛍光パラメータの理解について説明をしたいと思います。

このページを読む前にはかならず「クロロフィル蛍光の利用」に目を通しておいて下さい。


速度定数

 

 クロロフィル蛍光の理解にやっかいなことの一つがこの「速度定数」です。あんまり正しく説明できる気がしませんが、私なりの理解を書いておきます(間違いに気づいた方はご連絡下さい)。

 クロロフィルは光エネルギーを吸収し、励起されます。このエネルギーは必ず何か仕事をします。一つが光化学反応、一つがクロロフィル蛍光です。その他に熱として放散されたり、あるいは光化学系Iに伝達されてしまう場合もあります。

 仮に、話を単純化するためにエネルギーの流れる先がクロロフィル蛍光だけである、としましょう。クロロフィルに閃光を当てて、一瞬だけクロロフィルがエネルギーを吸収した状態を想像して下さい。今の仮定ではクロロフィルが吸収したエネルギーは全てクロロフィル蛍光に変換されるわけですが、クロロフィルが持っているエネルギーはすぐに蛍光になってしまうわけではなく、徐々に減少していきます。この減少のしかたは、最初はいきおいよく減り、減り方は徐々に遅くなる、すなわち指数関数で近似できます。

E= E0 exp(-kt)

ここでE0は時間t=0のときのエネルギー量です。なぜ指数関数になるかというと、クロロフィル蛍光にエネルギーが流れていく速度はクロロフィルが持っているエネルギーの量に比例するからです。持っているエネルギーの量が多いほどエネルギーが出ていく確率が高い、というわけです。このときクロロフィル蛍光の強さがどうなっているかを式変形して見てみましょう。今の話ではエネルギーの行き先はクロロフィル蛍光しか考えていません。つまり、クロロフィルが持っているエネルギーの量の減少速度イコールクロロフィル蛍光の強度(時間あたり蛍光として出ていくエネルギーの量)となります。つまりクロロフィル蛍光の強度はEを時間で微分したもの(に-1をかけたもの)になります。

-dE/dt = k E0 exp(-kt) = k E

ということで、蛍光強度はクロロフィルが持っているエネルギー量に比例するわけです。そしてその比例定数がk、ということになります。この比例定数kを速度定数(rate constant)と呼びます。

 速度定数はクロロフィル蛍光の話にばかり使われるものではなく、反応速度を扱うときにしばしば出てきます。酵素反応なんかでも、反応速度が基質の濃度に比例する場合に使われます。上の式E= E0 exp(-kt)は一次反応式(first-order equation)と呼ばれたりします。

 すでにFickの法則を知っている人や、いわゆるオームの法則を知っている人には速度定数の考え方は理解しやすいかもしれません(参照)。Fickの法則の場合には、拡散速度は二点間の濃度差に比例します。ここでエネルギー移動の話に例えるなら、クロロフィルが持っているエネルギーが多い=移動元と異動先のエネルギー量の差が大きい、ということになります。そして速度定数kはコンダクタンスに相当すると考えていいでしょう。同じエネルギーを持っていたとしても、kが大きいほどエネルギーが流れやすいわけです。

 kの大きさはどのような意味があるでしょうか。式をよく見ればわかることですが、kが大きいと最初に出ていく蛍光エネルギーは大きく、その大きさは急速に減少します。逆に、kが小さいと最初に出ていく蛍光は小さく、その減少も小さくなります。減少の程度に違いがあるのは、残っているエネルギーの量が違うからです。最初に出ていくエネルギーが大きければ、クロロフィルに残っているエネルギーが急速に放出されてなくなってしまうからです。リン光などが暗闇でも比較的長い時間ぼうっと小さく長く光っているのは、kが小さいから光の強度が大きく、持続時間が長い、と解釈できます(リン光が出るしくみは蛍光とちょっと違うみたいですが、私にはよくわかりません)。

 上の話ではエネルギーの行き先がクロロフィル蛍光のみであるケースを考えましたが、実際にはすでに述べたように複数のエネルギーの行き先があります。しかし、いずれのエネルギーの行き先についても、一次反応式を仮定できるようです(根拠は知りません)。そして、それぞれの行き先へのエネルギーの移動しやすさは速度定数Kで表すことができます。そして、速度定数kは行き先によって違います。クロロフィル蛍光の速度定数は、例えば光化学反応の速度定数に比べかなり小さいです。このため実際の葉ではクロロフィル蛍光で出てくるエネルギーは微弱で、大部分のエネルギーが光化学反応に使われるわけです。


エネルギーの分配

 

 上の話ではエネルギーの行き先がクロロフィル蛍光のみであるケースを考えましたが、実際にはすでに述べたように複数のエネルギーの行き先があります。しかし、いずれのエネルギーの行き先についても、一次反応式を仮定できるようです(根拠は知りません)。そして、それぞれの行き先へのエネルギーの移動しやすさは速度定数Kで表すことができます。そして、速度定数kは行き先によって違います。

 では、クロロフィルが吸収したエネルギーが複数の経路に分配されるケースを考えましょう。まず、エネルギーの行き先にどのような種類があるかを考えます。エネルギーの行き先として現在知られているのは、クロロフィル蛍光、光化学反応、光化学系I(state transition)、別の光化学系II、そして熱として放散されるものです。クロロフィル蛍光の速度定数をkf、光化学反応の速度定数をkp、熱放散などその他へのエネルギー消費の速度定数を仮にkhとします。このとき各反応に流れるエネルギーの速度は速度定数に比例します。ある強さの光を持続的に当てている状況を考えてみましょう。クロロフィルでのエネルギーの吸収と放出はつりあっている(定常状態)と考えられます。各反応に流れるエネルギーの速度は速度定数に比例するわけですから、

吸収エネルギー= 放出エネルギー = a kp + a kf + a kh

となります。aは単なる比例定数です。このときクロロフィル蛍光で出ていくエネルギー=a kfですから、蛍光収率(吸収エネルギーあたりの蛍光放出エネルギー)は以下のようになります。

蛍光収率 = kf/(kp + kf + kh)

蛍光収率Fはどのように変化するでしょうか? 例えば、阻害剤やフラッシュを当てること(後述)で光化学反応を止めると、蛍光収率はkf/(0 + kf + kh)になります。kpは正なので、光化学反応を止めたほうが蛍光収率は大きくなります。キサントフィルサイクルが動いてゼアキサンチンが増え、熱放散能力が大きくなると、khが大きくなり、蛍光収率Fは低下することになります。これらの情報をうまく組み合わせると、kpやkhの大きさを推定できるわけです。


開いている光化学系IIと閉じている光化学系II:FoとFm

 

光化学系IIは、暗黒下では光化学反応をしません。反応中心P680は電子を持っており、電子受容体QAは電子を持っていません。この状態を「開いている(open)」とか「酸化された」と表します。光があたれば速やかに光化学反応を起こすことができる状態です。一方、フラッシュをたくなどしてかなり強い光を当てると、電子伝達が飽和してしまい、QAが電子を持ち、P680が電子を持たない状態になります。この状態を「閉じている(closed)」とか「還元された」と表します。このときさらに光を当てても、その光が光化学反応に利用される可能性は、ゼロではありませんが、ゼロに限りなく近くなります。

 以上から、葉の全ての光化学系IIを「開いている」状態にするためには、葉に当てる光を消せばよく、「閉じている」状態にするためには、フラッシュをあてればよいわけです。前者の蛍光収率をFoあるいはFo'、後者の蛍光収率をFmあるいはFm'と表します。葉をあらかじめ暗所においていた場合はFoやFmが使われ、葉に定常光(こちらでいう照射光actnic light)が当たっているときにフラッシュを当てた場合がFm'、光を消した直後に測定した場合がFo'です。Fo'を測定する場合は、光を消すと同時に赤外光を当てます。赤外光を当てる目的は、光化学系Iを駆動してQAを完全に酸化することです。赤外光は光化学系IIのクロロフィルが吸収されず、光化学系Iのクロロフィルには吸収されるので、光化学系IIより下流の電子伝達のみが動くのです。

 FoとFmは速度定数を使うと以下のように書き表されます。

Fo = kf/(kp + kf + kh)

Fm = kf/(0 + kf + kh)

Fmに入っている0は、光化学反応が行えないためにkpが0になっていることを意味します。

 なお、通常の葉では、Foは約0.005(つまり、吸収した光の約0.5%が蛍光として出る)、Fmは0.03と言われています(Krause and Weis 1991)。光化学反応が止まったときに全てのエネルギーが蛍光に流れるわけではないことに注意して下さい(私がこれまで書いた文章ではそう誤解されかねない書き方をしています)。そうならないのは、kfよりもkhのほうが大きいからです。つまり、光化学反応が止まったときにはほとんどのエネルギーは熱として放散されているわけです。


光化学反応の量子収率:Fv/Fm

 

では、上の式を利用して光化学反応の量子収率を考えてみましょう。一般に、Fv/Fmが光化学反応の量子収率を表すと信じられています。ではFv/Fmを計算してみましょう。

Fv/Fm = (Fm - Fo)/Fm = {kf/(0 + kf + kh) - kf/(kp + kf + kh)}/{kf/(0 + kf + kh)} = kp/(kp + kf + kh)

ということで、Fv/Fmが光化学反応の量子収率を表すわけです。なお、ここでは、FmとFoを測定しているときにkfとkhが変化しないというのが仮定です。一応経験的には正しいと考えられているようです。

 もしクロロフィルが吸収した全ての光エネルギーが光化学反応のみで使われる場合は、kf=kh=0で、Fv/Fm=kf/kf=1となります。実際にはkfもkhもゼロではなく、健康な葉のFv/Fmは0.8-0.83という値になります。なお、暗所に置いておいた葉のエネルギー放散(kh)のしくみは、よくわかっていません。暗所ではチラコイド膜内外のプロトン勾配もありませんし、普通の葉ではゼアキサンチンやアンテラキサンチンの量は0に近くなっています。どこでどのようにエネルギーが放散されているのかはよくわかっていません。


開いた光化学系IIの割合:qP

 

葉に光を当てていると、一部の光化学系IIは閉じています。といっても閉じっぱなしの光化学系IIと開きっぱなしの光化学系IIがあるわけではなく、一つの光化学系IIレベルで見れば開くのと閉じているのを繰り返しています(つまり電子伝達が滞った光化学系IIは「閉じて」おり、電子伝達が行われ次第「開き」ます)が、葉全体として見ると開閉がある定常状態に達していて、何割かの光化学系IIが閉じた状態になっているように見えます。

 開いた光化学系IIの割合はqPというパラメータによって表されることが慣例となっています。なぜqPが開いた光化学系IIの割合を表すかの証明はいろいろな方法でできますが、ここではもっともわかりやすい説明をしてみましょう。

 上記のように、葉レベルで見ると光化学系IIの開いている率が一定であるとします。開いている光化学系IIは蛍光収率fo'を持ちます(ここでfは光化学系IIレベルの蛍光収率)。そして、閉じている光化学系IIは蛍光収率fm'を持ちます。開いている光化学系IIの割合をxとしましょう(1-xが閉じた光化学系IIの割合)。照射光をあてているときの葉レベルの蛍光収率Fは以下のように表されます。

F = xfo' + (1-x)fm'

これをqPの式に代入してみましょう。qPは以下のように表されます。

qP =(Fm' - F)/(Fm' - Fo') = (fm' - xfo' - (1-x)fm')/(fm'-fo')

= (xfm'-xfo')/(fm'-fo') = x

というわけです。

 ただし、ここで重要な仮定があります。それは光化学系IIの間でエネルギーの伝達が起こっていない、という仮定です。古くJoliot & Joliot (1964) の実験によって、閉じた光化学系IIから開いた光化学系IIにエネルギーが伝達されることを示唆する結果が得られています(原著はフランス語で私も読んではいません。興味のある方はJoliot & Joliot 2003をご覧下さい)。もしこの結果が本当であれば、qPは開いた光化学系IIの割合を示さないことが理論的に導かれています(Hauvex et al. 1991)。ただ、光化学系II間での電子伝達の割合がどれだけ大きいのかはまだ結論は出ていないようです(Schreiber et al. 1995)。

 


光化学反応の量子収率:ΔF/Fm'

 

光化学反応の量子収率(吸収光量あたりの光化学反応の数)を蛍光パラメータから導くときには以下のようなステップで考えます。1)まず、開いている光化学系IIの割合がどれだけあるか、ということが問題です。閉じている光化学系は光を吸収しても光化学反応を行わないからです。2)次に、開いている光化学系IIでどれだけ量子収率があるか、ということが問題になります。開いている光化学系IIの割合=開いている光化学系IIが吸収する光の割合だとすると、両者の積(開いている光化学系IIの光吸収量/総光化学系IIの光吸収量)×(開いている光化学系IIの光化学反応数/開いている光化学系IIの光吸収量)=(光化学反応数/総光化学系IIの光吸収量)となります。

 開いている光化学系IIの割合は、上記のようにqPによって表すことができます。

 開いている光化学系IIの量子収率は、光を突然消し、全ての光化学系を瞬間的に開き(Fo')、さらにそれにフラッシュをあてる(Fm')ことによって求めます(光を突然消した直後は開いている光化学系IIの量子収率が変わらない、ということが仮定です)。で、開いている光化学系IIの量子収率は以下のようにFv'/Fm'として表されます・

Fv'/Fm' = (Fm' - Fo')/Fm'

なぜFv'/Fm'が量子収率を表すのかは、Fv/Fmと全く同じ理屈で説明できます(省略)。わざわざFv/Fmと区別するのは、光を当てているときには光化学反応の量子収率が低くなるためです。量子収率が低くなる理由は、熱反応が大きくなるためです。速度定数を使って表すと、Fv'/Fm'=kp/(kp+kf+kh)と表すことができますが、暗所に順応した葉と光照射下の葉では後者のほうがkhが大きくなるわけです。一般にFv'/Fm'は強光ほど低くなります。

 光化学反応の量子収率は以下のように表されます。

ΔF/Fm' = qP × Fv'/Fm' = (Fm' - F)/Fm'

 光化学系IIがどれだけの光を吸収したかがわかれば、葉レベルの電子伝達速度がわかります。一光量子一電子伝達が起こりますので、

ETR = ΔF/Fm' × c × abs ×PFDinc

ここでcは葉が吸収する光あたりの光化学系IIが吸収する光、absは葉の光吸収率、PFDincは葉にあてた光強度です。cは一般に0.5、absは0.84が使われていますが、absはクロロフィル含量などに依存し、一定ではなく(こちら)、cも葉によって違う可能性があるので注意が必要です。


熱放散のパラメータ:qN、NPQ、1-Fv'/Fm'

 

強い光が当たっているときには、光化学系IIは吸収した光のうち、かなりの割合を熱として放散しています。熱放散の大きさを示す指標としてqNとNPQの二つがよく使われています。ここではこれのパラメータが何を意味するかちょっと考えてみましょう。qNは以下の式で定義されています。

qN = 1 - (Fm' - Fo')/(Fm - Fo)

いったん葉を暗所においておき、FoとFmを測定します。そして目的とする強さの照射光をあて、安定したところでFm'とFo'を測定します。ではこの式を解いてみましょう。暗所にいるときと照射光下では熱放散の速度定数が変わりますから、それぞれkh、kh'とします。途中を省略すると、以下のようになります。

qN = 1 - (kf + kh)(kp+kf+kh)/(kf+kh')/(kp+kf+kh')

なんだかよくわかりませんが、右の項には分母にのみkh'が含まれており、kh'が大きいほど右項が小さくなり、qNが大きくなる、ということはわかります。しかしqNの数字が何を意味するのかはよくわかりません。なお、qNの値は、kh'>khである限り0<qN<1になります。

 もう一つのパラメータNPQは以下の式で定義されています。

NPQ = (Fm - Fm')/Fm'

NPQの計算ではFo'が含まれていないため測定が簡単で、qNよりも多く使われています。これを解くと、こうなります。

NPQ = (kf+kh')/(kf+kh) - 1

これもkh'が大きいほどNPQが大きいということがわかりますが、この値が意味するところはやはり謎です。

 両パラメータともkh'が大きいと高くなる、という点では熱放散の指標となりますが、その実体はあまりよくわかりません。

 熱放散の指標として我々が使っているのは1-Fv'/Fm'です(Kato et al. 2003)。Fv'/Fm'は開いた光化学系IIにおける光化学反応の量子収率を表しますから、1-Fv'/Fm'は「光化学反応以外の反応の量子収率」ということになります(Demmig-Adams et al. 1996)。蛍光の量子収率が微弱であると仮定すれば(実際、光が当たっていないときの蛍光の量子収率は1%以下です)、1-Fv'/Fm'が開いた光化学系IIにおける熱放散の量子収率を表すことになります。注意しなければいけないのは、1-Fv'/Fm'は開いた光化学系IIにおける熱放散の量子収率であって、閉じた光化学系IIでの量子収率とは一致しないということです。したがって、1-Fv'/Fm'は葉全体の熱放散の量子収率を表すわけではありません。しかし、1-Fv'/Fm'はNPQやqNと違って定量的な意味があるので、私は1-Fv'/Fm'を使うようにしています。


Demmig-Adamsらの光エネルギー分配モデル

 

これらのパラメータを応用すると、吸収エネルギーがどのように分配されているかを推定することができます(Demmig-Adams et al. 1996)。

 吸収された光エネルギーの一部は光化学反応で消費されます。これは光化学反応の量子収率ΔF/Fm'がそのまま使えます。

 熱として放散されたエネルギーは、1-Fv'/Fm'として推定することができます。ただし、このとき一つ重要な仮定があります。それは、開いている光化学系IIと閉じている光化学系IIで同じように熱放散が起こっているというものです。これが正しいかどうかは全くわかりません。ちなみに、1-Fv'/Fm'は蛍光として放散されたエネルギーも含んでいます。

 ΔF/Fm'と1-Fv'/Fm'の和は1にはなりません。上の仮定では、開いている光化学系IIでも閉じている光化学系IIでも同量の熱放散が起こっていることになっています。開いている光化学系IIでは、熱放散されなかったエネルギーは全て光化学反応に使われていると仮定しています。では、閉じている光化学系IIでは? そう、閉じている光化学系IIでは、熱放散の他にどこかにエネルギーが行っていると考えられます。こうして計算されるのが「過剰エネルギー」です。

 過剰エネルギーEは以下のように計算されます。

E =1 - ΔF/Fm' - (1-Fv'/Fm')

つまり、光化学反応にも熱放散にもまわらなかったエネルギーということです。これは計算すると以下のように変形できます。

E =1 - ΔF/Fm' - (1-Fv'/Fm') =ΔF/Fm' (1-qP)

この式の意味するところは、閉じている光化学系IIにおける光化学反応量子収率ということになりますが、光化学反応の量子収率に相当するエネルギーが閉じた光化学系IIで過剰になっている、と解釈できます。こうして計算された過剰エネルギーは光化学系IIの傷害が起こる速度をよく説明します(Kato et al. 2003)。

 ただ、この「過剰エネルギー」に相当するエネルギー量が本当に過剰になっているのかはもう少し検討が必要でしょう。というのは、ここで出した式は以下のことも意味するのです:閉じた光化学系IIにおける過剰エネルギーへの速度定数は開いた光化学系IIにおける光化学反応への速度定数と同じである。あまり現実的ではないかもしれません。近年このモデルとは別のモデルが提示されています。その紹介はいずれまた。


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