Developmental Biology


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熊野研究室 発生生物学分野
 東北大学大学院生命科学研究科付属浅虫海洋生物学教育研究センター

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<はじめに>


20137月にできた研究室です。
生物がなぜもこのように多様なのかという大きな生物学問題に対して、海産無脊椎動物を用いて解析を行っています。

具体的には、動物の発生と発生にまつわる進化の問題について取り組んでいます。

1)発生
 1.多くの動物では発生の初期に生殖細胞系列は体細胞系列と分離し、全能性や次世代に唯一受け継がれる細胞としてその特殊性を確立・維持していきます。この過程がどのように起こるのかを明らかにすべく、転写調節機構に着目して研究をしています(下記「生殖細胞系列形成機構の解析」参照)
 2.生物は多様な形態をもつが、このような形態がどのようにして出来てくるのかという問題を発生学の問題として、マボヤのオタマジャクシ幼生の尾の形成過程とエダアシクラゲ触手の枝分かれに着目して研究をしています(下記「尾が形づくられる仕組みの研究」「クラゲ触手の枝分かれ機構の解析」参照)。

2)比較発生
 1.発生中に生殖細胞系列を作りだす仕組みは、進化の過程で劇的に変化したと考えられています。このような生物にとって必須で、一見変化が困難であると考えられる生殖細胞系列を作りだす機構が、進化の過程でどのように変化してきたのかを明らかにすべく、マボヤ母性局在因子PEM(下記「生殖細胞系列形成機構の解析」参照)に注目して研究しています。
 2.マボヤと近縁種ユウレイボヤでは似た形のオタマジャクシ幼生を作るのにも拘らず、その形づくりの仕組みは異なると考えらえています。このような発生機構の可塑性について理解すべく、各種ホヤの尾の形成機構について研究しています。


<研究内容>


1)生殖細胞系列形成機構の解析

 生殖細胞は全能性を維持するとともに世代を超えて生き続ける特殊な性質を持ち、個体の死とともに死ぬ体細胞とはその存在を異にしています。私達は、このような生殖細胞をつくりだす生殖細胞系列が、初期発生過程中にどのように体細胞系列と分離し生殖細胞系列に特徴的な性質を獲得するのか、その機構を明らかにしようと試みています特に、卵の段階で既に卵の一部に局在し、生殖細胞系列にのみに受け継が
れる母性局在因子群の機能に着目しています。
 
その1つであるPEM(図)は、マボヤの生殖細胞系列での転写をグローバルに抑制する因子であることを最近明らかにしました。生殖細胞系列での転写抑制は、体細胞分化へと導く様々な転写を抑えることで、生殖細胞系列が体細胞プログラムに巻き込まれないために必須だと考えられています。PEMは、ハエと線虫で同定されたそれぞれの母性局在因子PgcPIE-1と同様に、pTEFbという複合体に結合しRNA polymerase IIのリン酸化を抑制することでグローバルな転写抑制を行います(図)。おもしろいことに、これらの3因子はそれぞれの系統にしか存在しない進
化的に新しい因子で、ハエ、線虫、ホヤを含めた幅広い種で、それぞれにユニークな母性局在因子が、pTEFbを介したRNA polymerase IIのリン酸化の抑制という共通の機構で生殖細胞系列での転写を制御することを示唆しています。したがって進化発生学的な興味として、このような制御機構が進化の過程でどのように獲得されたのかを明らかにするために、様々な近縁海産無脊椎動物種でのPEMの機能および転写抑制機構を調べています。
 またPEM以外の生殖細胞系列に受け継がれる母性局在因子群についても、それらが生殖細胞系列形成にどう関わるのかを、特に転写制御機構に着目して調べています。生殖細胞系列での転写は胚発生期の一定期間グローバルに抑制されたのち、体細胞系列遺伝子群の発現は抑えられたまま生殖細胞系列特異的な遺伝子のみ発現が開始します。このような、グローバルな転写抑制を解除して遺伝子発現が始まる過程や、体細胞系列遺伝子と生殖細胞系列遺伝子の発現を区別する仕組みを明らかにしたいと考えています。
2)尾が形づくられる仕組みの研究

 ホヤ胚では後期神経胚になると尾を作る初期段階として、体の前後半分あたりの場所に「くびれ」ができ(図赤矢頭)、はじめて胴部と尾部の境界が目に見えて形成されます。この後、尾部のみが前後に沿って著しく伸長し、最終的には胴部の45倍の長さにまで達します。ホヤは我
々ヒトを含む脊椎動物と同じ脊索動物門に属しますが、脊椎動物や頭索動物など他の脊索動物の尾のでき方は、後期神経胚の後端に存在する尾芽という部分が後方へ増殖することでできることが知られています。したがって、他では見られないホヤに特徴的な尾作りの様式には、新規な形作りの原理が働いているはずだと考え、以下の2つのことを明らかにしようとしています。1つめは、尾を構成する個々の細胞がどのように動き、振る舞うことで尾という形作りに貢献するのか、2つめは、このような細胞の動きや振る舞いが、発生過程においてどのようにして適切な時間と場所で起こるようコントロールされているのかを明らかにしたいと思っています。
 

3)クラゲ触手の枝分かれ機構の解析
 
 多くのクラゲの傘縁触手は、枝分かれのない一本線状をしており、摂餌のための刺胞溜を持っています。しかしながら、エダアシクラゲ(Cladonema pacificum)の傘縁触手は複数回分岐し、先端部は摂餌のための刺胞溜をもつ枝触手、基部は着地のための付着器官をもつ枝食酢がそれぞれ複数存在しています(右図)。私たちは、クラゲ触手がこのような分岐状態を形成する仕組みを明らかにすることで、生物の体が形を作りながら多様な器官を作り上げる仕組みを理解したいと思っています。また、同じエダアシクラゲ科に属するハイクラゲは分岐を一つしか持たないこと、エダアシクラゲ科に近縁のタマウミヒドラ科に属するサルシアは分岐を全く持たないことから、これらの種での触手分岐機構を比較解析することで、進化の過程で新規形質(ここでは分岐)がどのように獲得されたのかを理解できるのではないかと期待しています。