多細胞生物の発生過程にはたくさんの細胞が、増殖・分化・接着・移動・死などの個性的なイベントを積み重ねて個体発生を成立させています。

 例えばプログラム細胞死は、発生過程では適切な細胞を除去して組織を形づくり、さらに成体では異常な細胞を取り除くことで生命システムの恒常性を維持します。そのため個体の中で正常な細胞死シグナルが破綻すると、ホメオスタシスの乱れが生じ、発生異常だけではなくがんや神経変性といった疾患を引き起こすと考えられます。
 個体という細胞社会における細胞死の生理的役割として、不要な場所と時期に細胞を除去するだけではなく、周辺細胞に対する増殖や細胞移動制御など、多彩な細胞機能に関与することが明らかになってきました。
 このような細胞のふるまいは細胞間ネットワークを形成して組織形成を成し遂げると考えられますが、そのシステムを解明するためには生体内での時空間的な情報を考慮した実験的アプローチ、つまり生きた個体のなかで起こる現象をリアルタイムで捉えるライブイメージングの手法が有効です。

 私達は、発生生物学の研究に有用でかつ遺伝学的知見が豊富なショウジョウバエをモデルとして選択し、組織形成を支える多彩な細胞のふるまいがどのようにして協調しているのか、ライブイメージングと遺伝学的スクリーニングを用いて研究しています。
 ショウジョウバエの豊富な遺伝学的ツールと生体イメージングの技術を駆使し、これまでに解析が困難だった生きた個体における個々の細胞のふるまいを可視化して包括的にとらえることで、組織形成を成し遂げる細胞間ネットワークシステムの解明 にアプローチします。 

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図1
各部分の構成要素において、後方に細胞内の蛍光タンパクの発現がみられるショウジョウバエの蛹の背部(左)と腹部(右)(黄色い枠内は雄性外生殖器の部位)
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図2
下部を緑色に区分した細胞を示した雄腹端部
動画 オスの生殖原基が回転する様子