光合成の生理生態学講座

光合成系構成要素

 

はじめに 

光化学系II (200510 05・200510 10)

光化学系I (200510 10)


はじめに

 

光合成の機作」では光合成系全体から俯瞰した光合成のしくみを説明しました。ここでは、各反応を担う光合成系構成要素について細かい解説をします。全ての構成要素について説明するのではなく、(他の部分の)必要に応じて順次説明を加えていくことになるかと思います。


光化学系II

 光化学系IIはチラコイド上に浮かぶクロロフィルとタンパク質の複合体で、20種以上のサブユニットから構成されています。光化学系II複合体は、大きくコアとアンテナに分けることができます。コアでは、下に記すように反応中心と電子伝達構成成分があり、電子伝達が起こります。アンテナは集光性クロロフィル−タンパク質複合体(LHCII, Light harvesting chlorophyll-protein complex)とも呼ばれ、光を捕集する役割を持ちます。

 LHCIIは、一つのサブユニット(ポリペプチド)が12か13のクロロフィルを結合しており(Kuhlbrandt et al. 1994)、分子量が25kD前後です。高等植物のアンテナは多くの場合二種類のLHCIIサブユニット(Lhcb1, Lhcb2)からなるようです(Jansson 1994)。一つのコアに多くのLHCIIが結合し、文字通り「アンテナ」となって光の捕集をします。アンテナに結合しているクロロフィルは、光を吸収すると励起されます(excitation)。クロロフィルが吸収したエネルギーは励起エネルギーとして次々に別のクロロフィルに伝達され、最終的に、コアに存在する反応中心P680に伝達されます。このP680が励起エネルギーを受け取ることで電子伝達が始まります。

 コアでは電子伝達が起こります。下図は高等植物の光化学系IIコアの簡単な模式図です。ここでは、かなり簡略化してあるのと、LHCIIは省いてあることに注意して下さい。コアの中心部分はD1タンパク質とD2タンパク質の二量体です。周囲にCP47やCP43をはじめ多くのサブユニットがあります。コアだけで約400-500kDaになります。

 

 

 電子の流れを単純に書くと、水→マンガンクラスタ(図では4Mn)→Z→P680→フェオフィチン(Phe)→QA→QBとなります。ただ、水分解から電子伝達が始まるわけではありません。

 P680は暗黒下では、還元された状態にあります(電子を持っている)。P680は、エネルギーを受け取って励起されると、フェオフィチンに電子を渡します。フェオフィチンからは電子はQA、QBと渡ります。P680はクロロフィルaの二量体と考えられています。フェオフィチンというのは。クロロフィルaからマグネシウムイオンが外れたものです。光化学系IIには2分子存在しますが、電子伝達にはたらいているのは一分子だけのようです。QA,QBはどちらも結合型のプラストキノンです。QB部位で電子を受け取ったプラストキノンが遊離してcyt b/f複合体に電子を伝達します。P680、フェオフィチン、QBはD1タンパク質に、QAはD2タンパク質に結合しています。

 さて、光エネルギーにより励起され、酸化された(電子を渡してしまった)P680には電子が補充されます。この電子は水を分解することで得られます。水はマンガンクラスタで分解され、取り出された電子はZを経てP680に渡されます。マンガンクラスタは4つのマンガン原子からなります。水を分解するメカニズムは未だに明らかではないようですが、かなり確度が高いモデルが出されています。水を分解して酸素が出るまでには、4光量子が光化学系IIに当たることが必要です。P680が酸化されるたびにマンガンクラスタが電子を渡して変形し(S0、S1・・・S4と呼ばれる)、4回電子を渡すごとに水を分解し、酸素を発生させているのだろうと考えられています。Zは、D1タンパク質のチロシン残基です。光合成の電子伝達系でアミノ酸が直接電子伝達の役割をするのはZだけです。

 光化学系IIが持つクロロフィルの数は生育条件によって大きく変わります。これは、生育条件によって一つのコアに結合するLHCIIの数が変わるためです。LHCIIの数の変化はクロロフィルaとクロロフィルbの比を見ることで比較的簡便に知ることができます。コアに結合しているクロロフィルのほとんどはクロロフィルaですが、LHCIIはクロロフィルaとクロロフィルbを半々くらいづつ持っているため、LHCIIが増えるとクロロフィルa/b比が減少します。

 光化学系IIのコアにはCP47とCP43というクロロフィルを結合しているサブユニットがあります("CP"はたぶんchlorophyll Protein、数字は電気泳動したときの見かけの分子量kD)。この他、CP29(Lhcb4)、CP26(Lhcb5?)、CP24(Lhcb6)というサブユニットもあります。この3つのサブユニットはLHCIIのサブユニット(Lhcb1, Lhcb2)によく似ており、機能的にはアンテナと考えるのが妥当ですが、一つのコアにおそらく一サブユニットしかなく、生育条件による量の変化はないようです(Bailey et al. 2001)。私が光合成の窒素分配のモデルを作ったとき(Hikosaka and Terashima 1995)には、一つのLHCIIサブユニットが13、コアが60持っていると仮定しました。光化学系II複合体としては100-300程度のクロロフィルを持っていることになるはずです。


光化学系I

 

 光化学系Iの構造、機能は光化学系IIによく似ています。複合体はやはり数十種のサブユニットから構成され、アンテナ(LHCI)を持っています。LHCIのクロロフィルが光を吸収すると、反応中心P700に励起エネルギーが伝達されます。電子は、P700→A0→A1→Fx→FA/FBという順に伝達され、フェレドキシンに渡されます。。酸化されたP700にはプラストシアニンが直接電子を渡します。

 700はクロロフィルaの二量体と考えられています。A0もクロロフィルと考えられています。ただし、こちらは一分子です。A1は二分子のビタミンk1と考えられています。Fx、FA/FBはともに鉄−硫黄センターです。

 サブユニットの構造もよく似ています。中心部にはPSI-AとPSI-Bというサブユニットが二量体を形成しています(光化学系IIのD1、D2に相当)。この二量体にP700が結合しています。PSI-Cは二つの鉄−硫黄センターを持っていて、電子伝達に関係します。PSI-DとPSI-Eはストロマ側に位置し、フェレドキシンと光化学系Iの電子伝達を手伝います。同様に、PSI-Fはプラストシアニンと光化学系Iの電子伝達を手伝います。以上、Golbeck (1992) の拾い読みでした。

 光化学系Iから電子を受け取ったフェレドキシンは、フェレドキシン-NADP酸化還元酵素を介してNADPを還元します。こうしてできたNADPHが還元力として利用されることになります。フェレドキシンの機能はこれだけではなく、光呼吸、亜硝酸還元、カルビンサイクルのいくつかの酵素の活性化では直接還元力を供給します。

 光化学系IのコアとLHCIの量比は、光化学系IIに比べればあまり変わらないようです。単離した光化学系Iは反応中心あたり約200のクロロフィルを持つことが多いようです。私のモデルでは反応中心あたり184個で固定しました(Hikosaka and Terashima 1995)。また、光化学系I複合体の分子量はコア+LHCIで約500kDaになります。

 


戻る