エゾエンゴサク
(Corydalis ambigua Cham. et Schltdl.*)

ヤマエンゴサク
(Corydalis lineariloba Sieb. et Zucc.)

 

 仙台近郊の春の山野を彩る植物の中でも、ここで紹介するエンゴサクの仲間はちょっとマイナーな存在です。同じ仲間に属するムラサキケマンやミヤマキケマンよりも個体数が少なく、一株一株が小さいためかもしれません。しかし独特の変わったかたちの花をさかせる姿はやはり目を引きますし、場所によっては見事に群生して、東北の山野に真っ先に春を告げる植物の一つとなっています。

 ヤマエンゴサクは低地の開けた草地に生えます。仙台近郊では、畑の縁などにまとまって生えている姿を見ることができます(写真上左)。一方エゾエンゴサクは標高の高いところ、山深いところに生育し、丈の高い草が生える前の落葉樹林の林床などに一斉に顔を出します(写真上右)。どちらも華奢な植物ですが、れっきとした多年草で、地下に丸い塊茎を持っていて、そこから葉や茎を出します。エンゴサクという耳慣れない名前は、この塊茎を乾燥させた生薬の中国名(延胡索)に由来します。

 どちらの種類も独特な形をした細長い花をさかせますが、エゾエンゴサクの方がたくさんの花をつける傾向があります。またこの2種は、ひとつひとつの花の根元についている、苞(ほう)という葉のようなもののかたちで、簡単に区別することができます。ヤマエンゴサクは切れ込みが入るのに対して、エゾエンゴサクはそのようなことはなく、まっすぐで単純なかたちをしています。エゾエンゴサクの方が全体的に大きくてしっかりしている傾向があり、ふつうエゾエンゴサクの方がたくさんの花を咲かせます。また、エゾエンゴサクは花色の変異が大きく、青紫、赤紫、白と、さまざまな色の花をさかせる株が、入り交じって群生していることがあります(写真下)。

 エンゴサクの仲間の独特なかたちの花は、4枚の花びらで構成されています(図下)。特に大きく目立つのが一番上の花びらで、長く後ろにつきだした部分(距)の中には蜜をためています。蜜は、雄しべと雌しべのまとまりの根元から距の中に伸びている蜜腺から分泌されます。残りの3枚の花びらは上の花びらに比べると小さく、特に両脇の2枚は下側でくっついて、雄しべと雌しべを包み込んでいます。虫がとまると、これら3枚の花びらが、花びらのつけねの部分を支点にして下がり、雄しべと雌しべが出てきて虫の体に触れます。この時に花粉の受け渡しがなされる仕組みになっています。

 この2種は自家不和合性ですので、種子を実らせるためには虫に訪花してもらわなければなりません。マルハナバチ類のクイーンが主な送粉昆虫となっていますが、中にはあまりありがたくないマルハナバチもいます。悪さをするのはオオマルハナバチのクイーンで、蜜のありかがわかりやすく、花びらの柔らかいエンゴサクの仲間は、彼女の格好の盗蜜のターゲットになります。しかし北海道での研究例から、オオマルハナバチのクイーンが盗蜜に訪れただけの花も、果実をつけていることがわかりました。彼女の体が花の長さとほぼ同じくらいであることから、盗蜜をしている間におなかが下の花びらを押し下げ、そこに花粉がついて送受粉が行われているようです。偶然不作法な虫をうまく利用できただけかもしれませんが、こうすることで春先の虫の少ない時期に、確実に子孫を残せるようになってきたのかもしれません。

*:北海道と本州のエゾエンゴサクを別の種に分類する意見があります。この場合、本州のエゾエンゴサクはC. fukuharae Lidenとなります。