リュウゼツラン(Agave spp. : リュウゼツラン科)

 

 メキシコといえば多彩なメキシカンフード、それに欠かせないのがテキーラです(写真左)。カクテルのベースとしてもお馴染みのテキーラは、ここで紹介するリュウゼツランという植物から作られます。テキーラについてはほかに譲るとして、ここではリュウゼツランの植物としての特徴に触れたいと思います。

 

リュウゼツランとは?

 リュウゼツラン(写真右下)は、以前はヒガンバナの仲間に含められていましたが、最近はリュウゼツラン科として扱われています。関東以西では庭によく栽培されるユッカ(イトラン、Yucca spp.)などが縁の近い植物です。北アメリカから南アメリカにかけての温暖な乾燥地域に、約300種が知られています。短い茎に質の厚い葉を放射状にたくさんつけ、タンポポのように地際から葉を広げるロゼットで生活しています。といっても、タンポポのようなかわいいロゼットではなく、大きなもので身の丈以上にもなります。日本では主に多肉植物として栽培されますが、沖縄や小笠原では野生化している種類もあります。ネイティブ・アメリカンは葉や茎を食料として利用していたようです。現在でも原産地ではプルケ、テキーラといったお酒の原料となるほか、ロープなどに使う繊維をとる植物(サイザルアサ:A. sisalana)としても利用されています。

 

一世紀に一度、生涯に一度の花

 リュウゼツランを育てたことがある人は、なぜこの植物はいつまでたっても花を咲かせないのだろうと思うかもしれません。リュウゼツランは英名を"century flower"といい、さすがに一世紀はオーバーですが、大型の種類は花が咲くまでに30年から40年と、途方もない時間がかかります。リュウゼツランは、花を咲かせるまでは葉を次々と出して(写真左下)、ゆっくりと大きな株に成長していきます。たっぷり栄養をためたリュウゼツランは、ある日突然、花を咲かせるための茎を伸ばし始めます。大きなものでは10m近い高さまで達し、数千の花を次々と開きます。メキシコでは、この花に花粉と蜜を求めてオオコウモリが訪れることで、受粉が成立するといいます。さて、花を咲かせて無事種子になるまで育て上げた親株は、これで一生を終えてしまいます。リュウゼツランは、何十年もかかって育ちはしますが、生涯に一度だけしか花を咲かせないのです。このような植物を「1回繁殖型多年草」といいます。何年も生きるので多年草ですが、生涯に一回しか花をつけないところは、一年草と同じです。温暖だけど乾燥しているためゆっくりとしか成長できないことが、このような生き方と関係があるかもしれません。

 

なぜたくさんの花を咲かせるのか?

 幾千も咲くリュウゼツランの花は、その全部が実となるわけではありません。だいたい2割程度の花しか果実にならないようです。花粉をつけたり、いろいろな操作をしても、この割合はあまり変わりません。それでは残りの2/3以上の花は、何のために咲いているのでしょうか?

 アメリカで行われた実験では、果実にならない花は主に花の咲く茎の下の方の枝についているもので、これらは花粉をばらまくことで繁殖に貢献している事がわかりました。だとしたらそこに咲く花は、最初から雌しべのない花にしてしまえばいいのにと思うのですが、リュウゼツランはそのようなことはしていません。なぜ全部の花がきちんと機能する雄しべと雌しべを持ってるのかはわかりません。しかしおそらく、花の咲く茎の上の部分がおれてしまったりしたときのための保険として、実を結ぶ機能が残っているのではと考えられています。リュウゼツランはこのほかにも、花の咲く茎に小さな子株を作りますし、親株は株分かれをして子株を残します。生涯に一度しかない繁殖のチャンスを、リュウゼツランはいろいろな方法で確実なものにしています。


back