東北大学 大学院 生命科学研究科 生命機能科学専攻 植物細胞壁機能分野理学部 生物学科 植物生理学 西谷研究室 ENGLISH
研究内容 論文・著作 研究室メンバー 学生の募集について アクセス 植物細胞壁機能
研究内容
>>研究目標  >>最近の研究成果  >>用いる方法論  >>進行中のプロジェクト
研究の狙い
 
地球の陸上に進出し,大型化しながら生息域を広げたのは維管束植物と脊推動物のみです。この二つの生物集団は,真核生物の進化の早い段階から,それぞれ独自の発生様式を進化させて多細胞化し、陸上進出後も異なる様式で大気環境への適応と,大型化の進化を進め今日に至っています。そのうち,大型化や大気環境への適応という点で,維管束植物の進化は特に顕著でした。

植物が陸上で大型化するに当たって最も重要な役割を演じたのが,しなやかにして強靱な細胞壁の進化です。この細胞壁の進化が,陸上植物の今日の繁栄を可能にしたといってよいでしょう。したがって,維管束植物の発生過程や,環境応答を理解するには,その細胞壁の理解が不可欠です。

植物細胞壁は、それだけでなく、外界の情報を感受し、処理し、発信する機能を持ち、植物の生命戦略上非常な役割を担っていることが最近解ってきました。

このような多彩な機能を持つ植物細胞壁は、膨大な数の分子種から成る極めて複雑な動的なシステムです。その動態や機能を理解するには、多数の遺伝子やタンパク質、酵素、多糖類などを包括的に理解しなくてはなりません。
このような観点から、私たちの研究室では、まず細胞壁関連遺伝子群に焦点を当て、細胞壁の構築や機能発現を分子解剖することにより,細胞壁の動態や機能を分子解剖することにより、植物が環境の変動の中で、その情報を上手く処理しながら成長や器官形成を行うしくみを解明したいと考えています。     細胞壁について 詳しくはこちら>>

細胞壁関連遺伝子群の働きを理解するためにはゲノム情報が不可欠ですので,ゲノム情報データベースが整備されているイネシロイヌナズナを維管束植物のモデルとして用いています。また,維管束植物とは異なる戦略で陸上環境に適応し,大型化せずに,独自の形態形成のしくみを進化させてきたヒメツリガネゴケにも注目し,維管束植物と対比させながら、細胞壁関連遺伝子群の働きを解析しています。

   
左から順に、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana),イネ(Oryza sativa),ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens

細胞壁は、植物固有の情報処理システムであり、植物に固有の組織形成システムです。この植物細胞壁の働きを分子解剖することを通して、陸上植物の成長や器官形成、環境への応答のしくみを理解することにより,動物とは全くことなる植物独自の発生メカニズム環境応答のしくみが明らかになるはずです。そうして,植物と動物の基本的なしくみの相違点を複眼的に解剖することにより、地球型生命体の本質を理解できるのではないかと考えています。


研究の最終目的
  1. 陸上植物が進化させた植物細胞壁システムの分子解剖を通して、植物型の多細胞生命体の成長・分化・器官形成の分子過程を解明する。

  2. 植物細胞壁の情報処理システムの分子回答を行い、陸上植物が機械ストレスなどの物理環境や病害菌や捕食者などの生物環境に対処しながら生存する生命戦略の分子メカニズムを解明する。

  3. 植物細胞壁の機能に関する研究成果をバイオ燃料生産などの次世代型の細胞壁利用技術につなげる。


    細胞壁を研究する理由はこちら>>

    進行中のプロジェクトはこちら>>



最近の研究成果
 
  • ペクチンメチルエステラーゼに関する成果
一般に陸上植物は二次細胞壁を発達させることで自らの体を支えていると考えられている。しかしながら本研究を通して、PME35による一次細胞壁のペクチン(ホモガラクツロナン、HG)の脱メチルエステル化がシロイヌナズナの花茎支持に必須であることが証明された。この結果は、陸上植物の支持機能には二次細胞壁だけではなく、一次細胞壁も重要な役割を果たしていることを示す重要な研究成果となった。
詳しくは こちら(Hongo et al. 2012)>>


pme35-1の表現型のメチルエステル化 HGの蓄積(右上)pme35-1ではHGが脱メチルエステル化されず,
花茎基部の機械的強度が低下し,花茎が倒伏する.



  • XTHに関する成果
エンド型キシログルカン転移酵素/加水分解酵素(XTH)は、キシログルカンの繋ぎ換えまたは分解反応を触媒する酵素である。多くの陸上植物の細胞壁は、キシログルカンが結晶性セルロース微繊維の間を架橋した基本構造を持つことから、XTHは細胞壁の構築・再編に重要な役割を担う酵素と考えられている。種子植物においては、多様化した組織の細胞壁構築・再編のために多数のXTH遺伝子が派生してきたことが明らかになっているが、種子植物とは全く異なる形質を持つコケ植物のXTH遺伝子についての知見は希有なものであった。本論文では、解読されたゲノム情報を用いて、コケ植物の一種であるヒメツリガネゴケのXTH遺伝子ファミリーの全容を明らかにしている。ヒメツリガネゴケにおいても、種子植物と同じ規模のXTH遺伝子ファミリーが存在し、各XTH遺伝子メンバーがそれぞれ特定の組織で機能していることが明らかになった。また驚くべきことに、コケのXTHの中には、種子植物のXTHでは報告のない構造を持つXTHが多数存在することも明らかになった。組換えタンパク質を利用した生化学的解析によって、コケ固有の構造を持つXTH は、キシログルカン分子を基質とする酵素などではなく、種子植物には存在しない全く新規の酵素であることが示された。
詳しくは こちら(Yokoyama et al. 2010)>>



シロイヌナズナのAtXTH28欠損変異体では,花糸の形態不全を起こし,その結果,受粉効率の低下による稔性の低下を引き起こすことを明らかにした。
詳しくは こちら(Kurasawa et al. 2009)>>





AtXTH27がシロイヌナズナのロゼット葉の管状要素の伸長に必須であることを明らかにした。
詳しくは こちら(Matsui et al. 2005)>>




AtXTH18のRNAiによる解析で、この遺伝子がシロイヌナズナの根の伸長に必須であることを示した。
また、AtXTH19はAXR2/IAA7を介したオーキシンの制御下にあることを示した。
詳しくは こちら(Osato et al. 2006)>>
イネとシロイヌナズナの比較ゲノム解析およびマイクロアレー解析により、イネの節間や葉身の伸長域で特異的に発現する遺伝子種を同定した。
詳しくは こちら(Yokoyama et al., 2004)>>
  • 細胞壁プロテオーム
    シロイヌナズナ培養細胞の細胞壁タンパク質のプロテオーム解析を確立し、プロトプラストから細胞壁が再生される過程で発現する細胞壁タンパク質群の挙動を解明した。
    詳しくは こちら(Kwon et al. 2005)>>
  • 二次壁形成に関わる遺伝子群
    シロイヌナズナの細胞壁関連遺伝子群765遺伝子のoligo DNAマイクロアレーシステムを設計・製作し、これを用いて二次壁構築に関わる遺伝子群を同定した。
    詳しくは こちら (Imoto et al. 2005, Yokoyama and Nishitani 2006)>>