光合成の生理生態学講座

光合成とは

 

はじめに (200509 16)

物質から見た光合成 (200509 16)

エネルギーから見た光合成 (200509 16)

生態系の中の光合成の位置づけ (200509 16)

光合成をする生物 (200509 16)


はじめに

 

ここでは、光合成という現象をよく知らない人に、光合成がもつ意義を知ってもらいたいと思います。素人さん向けの文章です。


物質から見た光合成

 

 ものすごくおおざっぱな言い方をすると、生物のからだは炭水化物からできています。また、生命活動に必要なエネルギーも炭水化物から取り出します。光合成は植物が炭水化物を手に入れるための代謝経路です。ほとんどの植物は光合成以外に炭水化物を取り入れるための経路がありません。例外として、炭水化物を他の植物から奪う寄生植物、菌類から奪う腐生植物、昆虫から奪う食虫植物などがありますが、生態系の炭素循環から見れば微々たるものです。

 陸上植物の場合、光合成で生産される炭水化物の炭素源は、大気に含まれる二酸化炭素です。炭素源としての二酸化炭素の利点は、どこにでもある、たくさんある、小さい分子なので利用しやすい、などでしょうか。「どこにでもある」「たくさんある」というのは、大気は二酸化炭素を約0.04%含んでいますので、「二酸化炭素が周囲にない」という状態は土にでも埋まらない限りない、ということです。また、空気の分子の拡散は非常に速いため、植物が光合成をしすぎて周囲に二酸化炭素がなくなってしまう、という状況もほとんどありません(ただし、二酸化炭素があっても周囲にあっても植物が利用できないことは多々あります。また、大気中の二酸化炭素濃度は非常に低いので、「たくさんある」けれども、植物にとって充分な量が供給されているとは限りません)。「小さい分子なので利用しやすい」というのは、特別な輸送経路を用いなくても手に入れられるということです。二酸化炭素は拡散(つまり受動輸送)によって細胞内に入ってきます。その際特にエネルギーを使ったりはしていません。光合成で利用されるエネルギーは、全て二酸化炭素が細胞内に入ってから消費されます。これは、例えば根で栄養塩吸収にけっこうなエネルギーが使われていることを考えると、意外に重要なことであるような気がします。

 光合成を一つの化学反応としてみると、

 

CO2 + 2H2O → (CH2O) + H2O + O2    式1

 

という化学式で表されます。炭水化物を (CH20) と書きましたが、多くの場合、光合成の最終産物はショ糖 (スクロース、C12H22O11) です。ショ糖が植物体内のあちこちに輸送され、新たに体を形作る材料として利用されたり、呼吸でのエネルギー生産の原料となったりします。


エネルギーから見た光合成

 

植物を燃やすと、熱が出ます。燃焼熱をエネルギー源として利用すればお湯だってわかせるし、発電だってできます。つまり植物を燃やすとエネルギーが放出されるということです。完全に燃やすと植物体を構成していた炭水化物は二酸化炭素になります。このことは、植物体−エネルギー→二酸化炭素、逆に言うと、二酸化炭素から植物体を作るためには相当のエネルギーが必要であることを意味します。

 上に示した式1は吸エルゴン反応、つまり外部からのエネルギーの投入がなければ進まない反応です。1モルのCO2を糖に変換するために、少なくとも480 kJのエネルギーが必要です。

 光合成で利用されるエネルギーは光です。クロロフィルと呼ばれる色素が光を吸収し、これがいくつかのステップを経て化学エネルギー(ATPなど)に変換されます。この化学エネルギーを利用して二酸化炭素から糖が合成されます。


生態系の中の光合成の位置づけ

 

我々人間は植物(米、野菜など)も動物(肉、魚など)も食べ、炭水化物などの必要な物質を吸収し、体を形作る材料やエネルギーをとりだします。全ての生物は生きるため、成長するために炭素を必要とします。動物はそれを他の生物を食べることで充たしますが、元をたどると、ほとんど全ての生物中の炭素は光合成によって固定されたものです(例外として、化学独立栄養細菌による化学合成がある)。つまり光合成という反応が全ての生物の糧を供給しているわけです。

 人間活動も大きく光合成に依存しています。「食」だけではありません。石炭・石油といったいわゆる化石燃料は太古の植物の遺骸が変化したものです。つまり火力発電によるエネルギーも元をたどれば光合成、ということになります。

 地球の歴史で見ると、光合成は地球環境を大きく変えてきました。地球ができた当時の大気はほぼ全てが二酸化炭素でした。しかし光合成生物の増加により大気中の二酸化炭素濃度は大きく減少し、酸素濃度が増加しました。かつて大気にあった二酸化炭素の多くは現在生物や土壌に有機物として蓄積しています。


光合成をする生物

 

生物は、その進化系統から、細菌、古細菌、真核生物の3種類に大きく分けられます。光合成を最初に行った生物は細菌のグループから進化しました(光合成細菌)。光合成細菌の多くは、酸素発生をしない、つまり式1とは異なる経路の光合成経路を持っています。その中から、現在の高等植物とほぼ同じ光合成系を持つラン藻(ラン色細菌、シアノバクテリア)が進化しました。

 真核生物の中では、藻類や陸上植物などが光合成を行います。しかし、真核生物自身が光合成を行えるような進化は起こらなかったようです。かつてラン藻のあるものがある真核生物にとりこまれ、細胞内に共生し、葉緑体へと進化したのだと考えられています。

 現在地球上の光合成のうち約40%はラン藻によるもので、約40%が森林で行われているものだと考えられているようです。


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