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膜輸送 我々ヒトを含むほ乳類は、恒常性を持ち、体内環境を常に一定に保とうとするメカニズムを持っています。 例えば、体内のエネルギーの源であるブドウ糖は平常時血中の濃度(血糖値)が0.8~1mg/mlに保たれています。 実際には、食事をとって栄養を摂取した際には一時的に血糖値が上がり、逆に運動をすると血中のブドウ糖が消費され、血糖値が一時的に下がります。 そういった一時的な変動を元に戻し、恒常性を保つための様々なメカニズムの一つに、ホルモンの分泌があります。 血糖値が上昇した際には、すい臓からインスリンが、下降した際には、すい臓からグルカゴン、副腎髄質から糖質コルチコイドが、それぞれ血中に分泌されます。 インスリン、グルカゴン、糖質コルチコイドが実際どのように血糖値を調節するかは割愛させていただいて、 ここでは、インスリンなどの「分泌」に焦点をあてます。 インスリンを分泌するのは、すい臓のランゲルハンス島にあるβ細胞と呼ばれる細胞です。 β細胞の中身を詳しく見てみるとインスリンがつまった小胞が細胞膜近傍に集まっており、 血糖値が上がったと言うシグナルを受けると、小胞と細胞膜が融合し、中のインスリンが細胞外に放出されることになります。 実は、小胞の輸送や膜との融合はインスリンの分泌だけに行なわれていることではなく、ヒトの全ての種類の細胞で行なわれている現象です。 例えば、ホルモン分泌と同様に重要で良く知られたものとして、神経伝達物質(アドレナリンやアセチルコリン)の放出があげられるでしょう。 もっと言えば、細胞内の全てのオルガネラ間での物質のやり取りに同じようなメカニズムが使われており、これら全てをさして、「膜輸送」と呼んでいます。 一般的な膜輸送は、4つの段階に分けられます。まず、膜を渡す方のオルガネラから小胞が形成される際、輸送される物質(タンパク質など)が積み込まれます。(①小胞の出芽) 形成された小胞は受け手側のオルガネラまで輸送されると(②輸送)、膜同士が接触するところまで引き寄せられます(③ドッキング/繋留)。 最後に小胞とオルガネラの膜同士が融合し、小胞膜や小胞内に含まれた物質が受け手側のオルガネラに受け渡されます(④融合)。 受け手側のオルガネラが細胞膜である場合、小胞に包まれた物質は細胞外に放出されるため、上で説明した分泌という現象になります。 膜輸送という名前からは、「膜」自体を運んでいるイメージを受けるかもしれません。もちろんそれも正しいのですが、 どちらかと言うと、小胞に包まれた中身や膜に埋め込まれたタンパク質を輸送することが重要です。 ヒトの体は約60兆個の細胞からできていますが、それぞれの細胞がその機能に応じた膜輸送を行っており、 この膜輸送が正しく行われないことで、病気が引き起こされることもあります。 私達の研究室では、この膜輸送のメカニズムを分子レベルで明らかにすることを目指して、日々研究を行っています。 低分子量GTPase Rab 他の生体反応と同様に膜輸送もタンパク質の働きによって行われています。 先ほど述べたように膜輸送には4つの段階がありそれぞれにおいて様々なタンパク質が関与しています。 その中では私たちは、Rabと呼ばれるタンパク質に着目して研究を行っています。 というのもRabは低分子量Gタンパク質であり、分子スイッチとして機能しているため、 膜輸送のON/OFFを制御する非常に重要な分子であると考えられているからです。 実際にどのようにRabが膜輸送を制御しているかというと、RabはGTPと結合している結合型とGDPと結合している不活性型の2つの状態をとり、 活性型になるとエフェクターと呼ばれるタンパク質と結合し、膜輸送を促進しています。 ヒトゲノムが明らかになり、私たちヒトの体には60種類のRabあることがわかっています。 それぞれのRabは特定のオルガネラに局在し、様々な膜輸送を制御していると考えられますが、 まだすべてのRabの機能が明らかになっている訳ではなく、新しい発見が期待される研究分野です。 主な研究テーマ • メラノサイトにおけるメラノソームの輸送機構の解明 • オートファジーに関わるRabの機能解明 • Rab-GAP(GTPase Activating Protein)の同定 など また、私たちの研究室はGCOE(脳神経科学を社会に還流する研究教育拠点)にも参加した実績があり、 神経細胞特異的に見られる膜輸送である神経伝達物質の放出にも興味を持っています。 |
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