ツガルウニ

ツガルウニ

センターとツガルウニ

【分子発生学的研究】


Yamazaki A. and Minokawa T. (2015)
Expression patterns of mesenchyme specification genes in two distantly related echinoids, Glyptocidaris crenularis and Echinocardium cordatum
Gene Expression Patterns 17: 87–97



Yamazaki A. and Minokawa T. (2015)はツガルウニとオカメブンブクを対象として、プルテウス幼生の間充織細胞分化に関係する発生調節遺伝子の発現パターンについて報告した論文です。ウニ類の発生研究にはStrongylocentrotus purpuratusやバフンウニなどの属するホンウニ上目 Echinaceaホンウニ目 Echinoidaオオバフンウニ科 Strongylocentroidaeに属する種が盛んに用いられていますが、その他のグループに属するウニ類の研究はさほど盛んではありません。
ツガルウニはホンウニ上目に属しますが、ホンウニ目とは2億年以上前に分かれた種で、比較的古いタイプの形質を現在も維持しています。
オカメブンブクはホンウニ上目とは2億年以上前に分岐した無ランタン上目 Atelostomataブンブク目 Spatangoidaに属する種で、砂泥底での生活に適応したウニ類です。
ホンウニ目と2億年以上前に分岐した種の個体発生メカニズムが、ホンウニ目のウニとどの程度の違いをもっているのかは、発生機構の進化の視点から興味深い問題です。ツガルウニもオカメブンブクも浅虫周辺に分布するウニですので、これらを2億年前にホンウニ目と分かれたグループの代表として選択し、発生調節遺伝子の発現パターンを調べました。その結果、今回調査した多くの発生調節遺伝子の発現パターンはホンウニ目の相同遺伝子と同様でしたが、オカメブンブクでは幼生骨片形成に関与するets1とalx1の発現パターンにホンウニ目と大きく異なる特徴がありました。またツガルウニでは一次間充織細胞における遺伝子発現にホンウニ目との大きな違いが認められました。


ツガルウニは近年は個体発生研究ではあまり利用されないウニですが、ウニの発生学における極めて重要な現象の発見がなされたウニでもあります。ウニの胚発生過程では一次間充織細胞と二次間充織細胞という二種類の中胚葉性細胞が生じます。正常発生過程では一次間充織細胞だけが幼生の骨片形成細胞に分化します。二次間充織細胞は色素細胞や胞胚腔細胞など多様な中胚葉性細胞に分化しますが、骨片形成細胞には分化しません。
間充織胞胚期に一次間充織細胞を手術で除去すると、二次間充織細胞が骨片形成細胞に分化することが知られています。このことは二次間充織細胞に潜在的な骨片形成能があることを示しています。この現象のメカニズムはアメリカのCharles Ettensohn博士によって詳しく研究されたことで広く知られています*。しかし、この現象そのものの発見は、当センターの前身である浅虫臨海実験所のスタッフだった福士尹博士が発見し、浅虫臨海実験所報告 The Bulletin of The Marine Biological Station of Asamushiに報告したもの**であり、この事実はEttensohn博士の論文にもはっきりと記述されています。


*Ettensohn CA, McClay DR (1988) Cell lineage conversion in the sea urchin embryo. Dev Biol 125:396–409
**Fukushi T (1962) The fates of isolated blastoderm cells of sea urchin blastulae and gastrulae inserted into the blastocoel. Bull Mar Biol Stn Asamushi Tohoku Univ 6:21–30