青葉山の森林構造−モミの巨木−

 ここ青葉山のモミ林は、かつてこの大地をおおっていた巨木の森の面影をいまだに色濃く残しています。当地でもっとも原生的な森林の一つとして「森全体」が国の天然記念物に指定され厳重に保護されています。

この森は、湿潤な東アジアを南北につらぬく常緑広葉樹林帯と落葉広葉樹林帯の「境界領域」北東端に位置しています。はるかヒマラヤから中国南部を経て日本へと連なるこの領域には、生物学的多様性のきわめて高い森林があることから、いま多くの研究者の注目が集まっています。

1. モミ林を構成する多彩な樹木

 この森では、高木の常緑針葉樹、高木・つる・低木・矮生低木の常緑広葉樹および落葉広葉樹、そしてササ植物という、さまざまなタイプの植物が見られます。とりわけ高木層(林冠)の様相は、他の森林帯には見られないほど変化に富んだ複雑なものとなっています。特に注目されるのは次の2点です。

(1) アカガシ・シラカシ・ウラジロガシ・アラカシ・シロダモ・イイギリ・アカメガシワといった常緑広葉樹林帯の主な樹種の分布が、当地を北限としてそろって途切れる。

(2) 常緑広葉樹林帯と落葉広葉樹林帯との「境界領域」で優勢となるモミ・スギ・アカマツ・イヌブナ・コナラなどが巨木*となって生育している。

この森で、多彩な樹木がどんな生活を営んでいるのかを明らかにすることは、日本の植生帯の成立を考える上でたいへん重要なことです。

*胸高(地上1.3m)直径60cm以上・樹高20m以上


2. パッチ構造が生み出す種多様性

 植物園には尾根に沿った傾斜のゆるやかな場所が多く、そこに広がる森が「青葉山のモミ林」の中核を形成しています。この森の特徴は、右図のような「パッチ構造」が見られることにあります。

(1) 林冠では、モミにスギを加えた常緑針葉樹の樹冠が集中する「モミ林冠パッチ」とコナラ・アカシデ・カスミザクラなどの多数の落葉広葉樹の樹冠が集中する「落葉広葉樹林冠パッチ」とがモザイク状に配列します。

(2)「モミ林冠パッチ」の下には4種のカシ類などの常緑広葉樹が生育します。「落葉広葉樹林冠パッチ」の下にはモミ稚樹とマンサク・ウメモドキ・オトコヨウゾメ・ガマズミなどの落葉広葉樹が生育します。両者はほぼすみわけた状態で暮らしています。

(3) 林床に暮らす落葉多年草(カタクリ・チゴユリ・コバキボウシ・ヒメシャガなど)は「落葉広葉樹林パッチ」の下を中心に分布し、そこで多くが花をつくります。

 常緑と落葉、針葉と広葉という林冠の違いは、林冠パッチの下に異なる光環境や土壌条件を生み出しています。それが生育形の異なる多彩な種の共存(すみわけ)を可能にし、まれに見る多様な森を成立させているのです。




   植物園記念館近くのモミ林断面図

 モミ林冠パッチにあたります。低木層の一部と草本層は省略しています。モミは大きな枝を張ります。この傘の下は暗いのですが、冷気は降りて来なくて、少し暖かいと言われています。南の地方から北上して来た樹種で、暗くても耐えられるものが、モミの下で生きています(例えばヤツデなど)。

3. 巨大な温帯性針葉樹、モミ

 モミは秋田・岩手県〜九州・屋久島までの主に太平洋側に分布しています。日本特産の常緑の大高木。幹はまっすぐで美しい樹形をしています。湿潤な東アジア温帯林の一部だけに生育し、古い時代に栄えた植物(温帯性針葉樹*)とされています。耐陰性にすぐれ、300年にもわたって生きるモミ**は、この植物園の森で最も優勢な樹木です。

4. モミの一生

秋(10〜11月)に種子が風にのって散布される(種子の時期)。

→翌年5〜6月に発芽。落ち葉の少ない裸地・攪乱跡地における一過性の定着(実生の時期)

→成長の早い先駆種や陽樹の樹冠下でゆっくりと成長・待機(稚樹の時期)

→上層木の枯死にともなう光環境の好転。それに乗じた急激な樹高伸長(若木の時期)

→林冠における占有空間の拡大と種子生産(成木の時期)

 成木まで生き延びる個体は、散布された種子のごくわずかにすぎません。暗い森の中に暮らす稚樹は葉が少なく、年輪幅が狭くなっています。樹齢が50年に達しているのに高さが数十cmしかないというように、成長が著しく抑えられています。しかし一方で、こうした稚樹は葉を薄くしつつ表面積を広げ(陰葉)、互いに葉が重ならないように水平に並べ、上伸成長よりも側方成長を優先させて傘形の樹冠をつくっています。少ない光を上手に利用する工夫です。他の多くの針葉樹と同様、まっすぐな主幹から枝を4本以上輪生し、1年に1段ずつ成長していきます*。光の少ない所でも成長でき、寿命が長いため、成長の早い先駆種や陽樹が先に森林を形成していても、やがてこれらを追い越します。こうして陰樹のモミが長期にわたって林冠を占有し、極相林をつくりあげていきます。


5. 年輪を見れば森の歴史がわかる

 毎年つくられる年輪の幅をくらべてみると、過去の成長の様子がわかります。園内のモミには、成長量の少ない年が長く続いた後、1870年頃から急に成長量の増えるものがあります(図のA、B)。また、この時期に発芽したらしいモミ(図のC、D)とアカマツ(図のE)があり、それらの初期成長量は大きくなっています。陽光下に限って生育するアカマツが定着を始めていることからも、この時に広範囲で林床が明るくなったことがわかります。明治維新(1867年)前後の混乱期に、伐採が行われたのかもしれません。こうして定着し、生き残ってきたモミたちが現在の森の景観をつくっているのです。


6. 二次林と遷移

 植物園内にはコナラ林とアカマツ林という二つのタイプの二次林があります。二次林とは、長い年月にわたってゆるやかに人の手が入ってきた、植林に由来しない森のことをいいます。これらは、私たちが石油に依存するようになる以前の暮らしを支えてきた雑木林*と同質の森であり、里山を代表する森です。

 コナラ林は土壌の発達した適潤な場所に、アカマツ林は土壌の浅い乾燥した尾根沿いに分布しています。ともにコナラ・アカマツ・コシアブラ・ウリハダカエデといった陽地性の高木が優勢で、その下層にはヤマツツジ・バイカツツジ・ミヤギザサなどが生育しています。早春の明るい林床はカタクリ・シュンラン・イカリソウ・マキノスミレなど色とりどりの花でおおわれます。これらの林内ではモミの稚樹や若木もしばしば見られることから、将来、モミを主体とした森へ移り変わってゆくと考えられます。遷移という200年もの歳月をかけた長い森のドラマが、いまも静かに進行しています。

*雑木林は、柴や薪炭を採取する場としてほぼ20年ごとに皆伐されてきました


植物園には、ほかに次のような林も見られます。

アカシデ林
アカシデとアカマツが高さ20mほどの高木層を形成していますが、アカシデが優占し、コナラ・ヤマモミジなどを混生しています。亜高木層はアカシデ・ヤマモミジ・タカノツメ・ヤマウルシなどからなっています。低木層はスズタケが優占し、ヤマツツジ・バイカツツジ・トウゴクミツバツツジ・ホツツジなどツツジ科の植物が比較的高頻度で出現します。草本層はウスノキ・ヒメヤブランなどが出現しますが、植被率は低くなっています。この群落は岩壁など、急な崖と斜面との変換点付近および急な露岩地などに成立しています。

スギ林
スギ植林は高木層が樹高28mに達し、胸高直径は約60cmであるスギが優占し、イイギリがわずかに混生しています。亜高木層はシロダモ、アワブキ・イタヤカエデなどが現れますが、優占度は小さめです。草本層はヤブコウジ・ミゾシダ・アオキ・サカゲイノデ・テンニンソウ・キバナアキギリ・ジュウモンジシダ・ウワバミソウなど陰地で湿った場所を好む植物が多く出現します。この群落にはモミ・コナラ・アカマツなどを含むスギの成育の悪い林分もみられます。


   
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